データに見る、老化研究に対する投資家の動向
Longevity TecnologyのWeb調査にて、老化研究へ投資している投資家のアンケート調査の結果が発表されています。いくつか興味深い示唆が得られているので、まとめておこうと思います。
元データ https://www.longevity.technology/the-results-are-in-sharing-our-longevity-investment-survey/
●投資家の地域
投資家はUSやUK、ドイツに多い傾向があります。
特にUSは、サンフランシスコ周辺が老化に投資に最も積極的なイメージがあります。
●投資時期
多くの投資家がシードステージからの投資を前提にしています。
一般的に投資家からの資金調達は、ある程度ビジネスが動き出してからでないと難しい場合も多いかと思います。
しかし老化研究については、上記のように多くの投資家がシード期を前提にしているので、基礎研究をもとにして資金調達をし、その後ビジネス化していくことも十分可能と考えられます。
●投資を行うための最低条件
意外にも対面での会議を必要とする投資家は少ない(全体の30%程度しかいない)ことが分かりました。
このデータから、
①経営陣の紹介を作成
②ビジネスプランを描く
③Web会議を行う
ぐらいが最低限の準備かと思います。
対面での会議が不要であれば、海外からの資金調達の可能性も一気に高まるので、このアンケート結果は非常に朗報だと思います。
まとめ
今回の調査結果から
・投資家はUS、UK、ドイツに多い
・シード期から投資を行う
・対面でのミーティングを必要とする訳ではない
ということが分かりました。
日本の老化関連スタートアップが生まれてこないのは、投資家に老化投資の意義が正しく理解されていないことが一因であるかと考えれます。一方で、海外投資家は老化投資に積極的で、Web会議でミーティングも完結できる可能性もあります。(ただし現状は老化分野が少しバブル気味なので、景気が悪くなった局面ではより慎重な投資家が増えるかもしれません)
いずれにしても。これから日本で老化関連スタートアップを立ち上げようとする企業は、国内投資家だけでなく、USやUKなどの海外VCへアプローチするのも一つの戦略だと考えています。
バイオテック資金調達ニュース 20年8月8日号
① Gero https://gero.ai/
シリーズA $2.2M
引受先はBulba Venturesなど。シンガポールを拠点としているバイオベンチャー。15年間のバイオバンクのデータを基に、ビックデータ解析で老化のバイオマーカーの発見を目指している。ウェラブルデバイスによって取得した生体情報なども今後データとして蓄積されていく模様。最終的にはバイオマーカーだけでなく、老化治療も目指している。現在、GeroのAIプラットフォームは、COVID-19対策として、加齢に関連する合併症による死亡率を低下させる治療薬の開発にも活用されている。
②Omega Therapeutics https://omegatherapeutics.com/
シリーズ不明 $80M
エピジェネティクスな手法で遺伝子発現を制御すことでヒトの治療薬を開発中。HPを見る限りでは、現段階で対象疾患を絞り込んでいる様子はなく、希少疾患からガンにいたるまで、あらゆる可能性を模索している模様。調達額は臨床試験の準備のために使われる模様で、2021年の臨床試験開始を予定している。
③Amylyx Pharmaceuticals https://www.amylyx.com/
シリーズB $30M
引受先はMorningside Venturesなど。ミトコンドリアと小胞体に依存する神経細胞の変性経路を標的とする。ALSのPhase2試験とアルツハイマー病のPhase2試験が進行中。アルツハイマー病の臨床結果は2021年第1四半期に結果が公表される予定。
GeroとOmegaは老化治療関連ということでピックアップしてきました。Geroについてはもう少し詳しい情報が欲しいなと感じました。何か知っている人がいたら、ぜひ教えてください。Omegaはエピジェネ制御によって、遺伝子の転写促進と転写抑制の両面で治療薬を開発しているとのことです。$80Mも調達できているのはとてもスゴイです!!
バイオテック 資金調達ニュース コロナウイルス関連
目次
今回は、新型コロナウイルス対策の緊急資金拠出制度を使った、バイオテックスタートアップの資金調達事例をご紹介します。
現在、アメリカ国立衛生研究所(NIH)によるRapid Acceleration of Diagnostics(RADx)が実施されています。これは新型コロナウイルスの検査に関する提案を中心に広くアイデアを募って出資するプロジェクトで、アメリカ政府は15億ドル(日本円で1,600億円以上)の予算をNIHに配分しています。
そして最近、NIHによる資金拠出企業が発表されていましたので、その中で注目の起業をいくつか紹介していきます。
① Helix https://www.helix.com/
調達額 $33.4M
ゲノム解析を得意とするスタートアップ。世界最大級のCLIA/CAP次世代シークエンシングラボ(米国の治験基準を満たした次世代シークエンシング)を保有する。Helixの検査システムでは、非侵襲的なキットによって取得したサンプルをサンディエゴにあるHelixのラボで処理し、翌日には診断結果を出すことができる。Helixは今回の調達額を用いて、秋までに1日10万人の診断能力獲得を目指す予定。
② マンモスバイオサイエンス https://mammoth.bio/
調達額 不明
ゲノム編集技術「CRISPR(クリスパー)」を開発したバイオベンチャー。この技術を応用して、新型コロナウイルス診断キットを開発中。GSK社との提携によってOTC検査薬として一般向けに販売を予定。現在の試験データでは、PCR検査と同等以上の精度で、20分以内に検査結果が分かるとのこと。
③ Mesa Biotech
調達額 $15.4M
Accula検査システムという小型の検査装置でPCR検査を行える。患者の粘液サンプルからウイルスの有無を判定し、30分で結果が分かる。FDA(米国食品医薬品局)はこのキットに対して、緊急使用許可権限を使用しており、すでに医療機関での利用が始まっている。
個人的にはマンモスバイオサイエンスの検査キットがとても興味深いと感じました。体温計で体温を計るような感覚で、コロナウイルスの有無を判定できるようになれば、感染拡大へ終止符を打てる未来も近いと感じます。
新型コロナウイルスは明らかにネガティブな出来事です。こうした感染拡大は本来ならば起きては欲しくない出来事でした。しかしその一方で、バイオベンチャーにとってはプラスの側面も表れているのも事実です。コロナ対策の製品開発に対して、資金が流入し技術向上の機会となっています。きっとこうした開発競争の中で生み出された技術が、コロナウイルス終息後もバイオセクターを牽引していく原動力となるはずです。そういった観点からも引き続き、NIHによる資金拠出の動向はウォッチしていきたいと思っています。
バイオテック 資金調達ニュース
最近のバイオベンチャーの資金調達動向をまとめました。トレンド把握などに役立てていきたいと思います。
① Paige https://paige.ai/
ラウンド: シリーズB 調達額:$70M
引受先は ゴールドマン・サックス、ヘルスケア・ベンチャー・パートナーズなど。スローン・ケタリング記念がんセンター(MSK)発のバイオベンチャー。MSKが持つ2500万件もの病理標本群への独占的アクセスとAIベースの計量病理学に関する知的財産を所有する。がんの病理診断におけるマッピングやバイオマーカー、予後予測技術などの開発を行っている。製薬分野にも意欲的であり、診断プロセスと製薬プロセスの両面にAIを用いて取り組んでいく。
② Locate Bio https://www.locatebio.com/
ラウンド:不明 調達額:£2.25M
引受先は Mercia Asset Management。調達額は研究開発に使われる予定。前臨床開発段階にある同社の最初の製品は脊椎疾患に対する治療薬。同社はノッティンガム大学からスピンアウトした会社で、再生医療の世界的権威であるケビン・シェイクシェフ教授の研究に基づいている。
③ Trobix https://www.trobixbio.com/
ラウンド: シリーズA 調達額: $3M
引受先はChartered Opusなど。イスラエルを拠点とするバイオテクノロジー企業。抗菌剤耐性菌に対する治療薬の開発を行っている。ActiSense™ および GoTrap™ テクノロジーを用いて、ファージをベースにした製品を開発している。細菌病原体に効果的にDNAを送達し抗生物質に作用させる。
Paigeは調達額からみても分かる通り、かなり有力なシード技術を保有していると思われます。天下のゴールドマンサックスまでもが出資に絡んでいますので、今後の展開が楽しみです。
Trobixは新型コロナウイルスなども見越して取り組んでおいたほうが良いテーマかもしれません。今後コロナウイルスの治療薬は開発されるでしょう。しかしそれと同時に薬剤耐性を持ったウイルスに変異していくでしょうから、薬剤耐性を持った病原体をどう治療していくのかという備えも人類はしておかなくてはいけないと考えます。
バイオへの投資は過去最高を記録 2020年第2四半期
バイオ業界への投資がとてもアツイです。
新型コロナウイルスの影響をもろともせず、VCからの資金調達額は拡大しています。
前回の関連記事はこちら。
以下は、The Record-Breaking Biotech Funding Tsunami Of 1H2020 | LifeSciVCLifeSciVCを日本語訳して、要約をまとめたものです。
Pitchbookの2020年第2四半期のデータによると、米国を拠点とするバイオファーマ企業のベンチャーキャピタルからの資金調達額は、業界史上最大の四半期となり、64億ドルを超えました。
これは、驚くべき結果です。多くの市場関係者は、2020年第2四半期は「記録的な」第1四半期の調達額から少し軟化するだろうと予想していましたが、その予想を良い意味で裏切る結果となりました。
ベンチャーキャピタルからの非公開株式への投資だけでなく、公開市場でもバイオテックに資金が流入しています。バイオテック株式市場では、他のセクターと比較して2020年のリターンが非常に高いため、投資家の関心と資金流入は旺盛です。
また、バイオテックのIPOが2020年に信じられないほどの好業績を上げていることから、投資家は新たなIPOへの参加を熱望しています。
BMO Capital Marketsのデータによると、2020年第2四半期には、IPOとフォローオン(追加売り出し)の合わせて、バイオ医薬品へのエクイティ資金調達額が176億ドルを超えていることがわかりました。
公開株と非公開株を合わせると、240憶ドルとなり、史上最大の資金調達額です。
感想
新型コロナウイルスが経済に与える影響を不安視する声もある中、このように資金調達額が過去最高を記録するのは、とても大きな意義のあることだと思います。バイオセクターの需要は確実に高まっており、スタートアップにとっても追い風です。本ブログでも何度か取り上げているように、最近では老化研究のスタートアップでも資金調達額の大きな案件が見られています。このバイオ系スタートアップの追い風に乗って、老化研究もますます発展していってほしいと思います。
一方で、日本ではまだまだバイオ系スタートアップの資金調達額も大きくはなく、老化研究にも資金が回っていないのが現状です。しかし、大学の研究室レベルでは、世界に誇れる魅力的な研究が多数行われています。ぜひ、大学発ベンチャーの起業の流れを再度起こしてもらいたいものです。特にバイオセクターに資金が流入している今は絶好のチャンスですので、このバイオセクターの追い風に日本も乗っていくべきであると考えています。
【第2回】バイオベンチャーのビジネスモデル ~バイオベンチャーの収益構造~
今回はバイオベンチャーのビジネスモデル特集の第2回目として、バイオベンチャーのお財布事情を解説していきたいと思います。
前回の記事はこちら
さて、前回の記事ではバイオベンチャーと製薬会社では住み分けができており、臨床試験がある程度進んだ段階で両者は協力体制に入ることをお伝えしました。
今回は、バイオベンチャーの収益構造について解説します。
まず、バイオベンチャーの収入については、以下のようなパターンがあります。
一方で、支出については以下の通りです。
- 研究開発費 バイオベンチャーの支出の大半はこの研究開発費です。
さて、これらの収入・支出の様子を図示すると以下のようになります。
これをご覧になって分かる通り、開発の初期段階は多くのバイオベンチャーが赤字になってしまうのです。
それでは、この赤字の期間をどうやって耐えているかというと、多くの場合は投資家に出資をしてもらうことで、何とか切り抜けています。ご存知のようにバイオベンチャーは成功すれば、何百倍も利益を得られる産業ですので、自分たちの持っている技術がいかに将来有望であるかを投資家に説明して、出資をしてもらっています。東証に上場しているバイオベンチャーであっても赤字企業はたくさんあります。したがって、バイオベンチャー側には、自分たちの技術を投資家に分かりやすく説明するという高いプレゼンテーション能力も必要であると言えます。
また、一部のバイオベンチャーは創薬支援や研究支援という形で、試薬の製造や解析業務の受託などをして稼いでいる会社もあります。しかし、もともと人員も豊富ではないため受託ばかりで本来の研究開発がおろそかになってしまっては本末転倒です。このあたりのさじ加減も適切にコントロールする経営能力も必要になり、バイオベンチャーを管理することは他産業の経営に負けず劣らず難度の高いものといえるでしょう。
いかがでしたでしょうか。当ブログでは引き続き、老化研究・バイオ投資に関して、皆様のお役に立てるような情報を発信していきたいと思います。取り上げてほしいテーマなどがございましたら、お気軽にコメントもしくはTwitterまでお問い合わせください。
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