iPS研究のお財布事情
iPS細胞研究基金をご存知でしょうか。
京都大学の山中先生が運営しているiPS細胞研究所の資金を賄う目的で設立された基金です。今回は、この基金のご紹介とそのお財布事情を分析していきます。
〇基金の目的は?
日本の科学研究の問題点として、お金の問題が必ず付きまといます。実際にiPS細胞研究所の9割が非正規雇用の研究者なのです。国からの予算は潤沢にありますが、それはすべて有期(例えば5年間など)の予算であり、満期後には打ち切られてしまう可能性もあることから、なかなか正社員の研究者を雇えないという問題があります。
これを解決する目的として、設立されたのがiPS研究基金です。現在は収入のほぼ100%が寄付によって支えられています。
〇収支分析
基金のHPにて収支報告が掲載されていたので、それらのデータを基にグラフ化したのがこちらです。
順調に寄付金額を集めることができているのが分かります。
一方で、iPS細胞研究所の全体の予算に占める、基金の支出は全体の11%にとどまっています。iPS細胞研究所を国からの有期の予算に縛られず、持続的な組織にするためには、このiPS細胞研究基金からの支出部分の割合をどのように増やせていけるかがポイントです。そのためには、基金の収入を今後も増やしていく必要があると言えます。
〇キーマンは?
資金集めの上でキーマンになるのは、まずは何といっても山中先生です。その知名度は絶大でメディア等への露出も多いのです。最近ではマラソンへの参加を通して、基金への寄付を呼び掛けるなどの活動も行っております。逆に言えば、山中先生が引退した後も基金への寄付額を維持できるような仕組みづくりを今のうちから考えておく必要もあるかもしれません。
渡邊文隆
渡邊さんは、基金の資金集めを担当するファンドレイザーの責任者として、2013年から活躍されてきた方です。Tポイントによるポイント寄付など、さまざまな新しい施策を打って基金の寄付額の増加に尽力されてきました。当初は年間5億円が寄付額の目標であったにもかかわらず、現在ではその10倍の年間50億円近くの寄付金を集めることに成功しています。
〇今後の展開は?
iPS細胞研究財団
現在、基金の資産の一部を使って、再生医療系の事業を展開していくiPS細胞研究財団が立ち上がっています。すでに武田薬品やキリンHDなどと共同研究を行うなど、事業化に向けた技術開発も始まっています。再生医療に関するコンサルティングビジネスも行う予定で、こうした事業から得られる資金をIPS研究所の資金に充てる予定です。
株式や債券などの資産運用
こちらは、個人的な考えになりますが、寄付金で蓄えた財団の資産を使って、資産運用を行うのもありなのではないかと考えます。海外では、イェール大学などの多くの大学が投資家として自身の資産を運用し、その運用益を大学の運営資金に充てています。iPS研究基金も資産が潤沢になりつつありますが、年間の収支報告を分析すると、その資産のすべてが現金で保有されているということが分かります。これらを株式や債券などのリスクアセットを使って運用してみるのもありなのではないでしょうか。仮に、100億円の資産を年間7%のリターンで運用すれば、現在の基金の支出は運用益から賄える計算になります。
iPS細胞をはじめとした再生医療技術は、日本が世界の最先端を走っている数少ない分野です。今後の発展のために十分に研究資金が確保できるような仕組みづくりが求められています。