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バイオ3Dプリンター最前線

バイオ3DプリンタのスタートアップであるAspect Biosystemsが20億円の資金調達をしたというニュースが最近ありました。そこで、今回はバイオ3Dプリンタについて取り上げていきたいと思います。

 

Aspect Biosystems: The Bioprinting Process - YouTube

 

〇バイオ3Dプリンターとは?

バイオ3Dプリンターとは3Dプリンターを使って、iPS細胞などを3次元に配列させることで、特定の組織や臓器に分化させる技術です。2019年11月から、佐賀大学にて患者自身の細胞を用いた細胞製人工血管移植する臨床研究などもスタートしており、今後の展開がきたいされています。

参考: https://www.amed.go.jp/news/release_20191113.html

 

〇問題点は?

3Dプリンタによって細胞を正確に3次元上に配列させることは可能です。しかし、そうしてできた組織や臓器が人間の体内にあるものと全く同じ働きをもつかどうかは別問題です。たとえば、体内では組織は単体で活動するわけではなく、ほかの組織との相互作用によって働いています。しかし、3Dプリンタで作成される場合は目的物の組織だけをピンポイントで作成しようとしますので、適切な相互作用の機能が付与されているかがわかりません。また、3Dプリンタで作成された組織は圧力や温度などが体内の環境と異なる状況下であることでしょう。これらの想定される問題点を克服していくことが実用化のカギになると考えられます。

 

〇バイオ3Dプリンターを作成している会社は?

バイオ3Dプリンターの作成をしている国内外の会社を紹介します。

 

①サイフューズ

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前述の佐賀大学との共同研究を行っており、今後が大いに期待されているバイオベンチャーです。富士フィルムが出資をしているほか、ニッセイキャピタルや三菱UFJキャピタルなどをはじめとした多くのVCが出資しています。

URL:  https://www.cyfusebio.com/

 

②リコー

Microsoft Customer Story-事業所主体の働き方 "変革" ――全国に 354 の ...

プリンターの会社ですが、バイオ3Dプリンタも開発しています。近年では、米国メリーランド州のバイオテクノロジー企業Elixirgen Scientificを買収し、バイオ領域の技術開発を進めています。Elixirgen Scientificは独自のQuick-Tissue™技術によってiPS細胞を目的物の細胞に効率的に分化させるという強みをもっています。リコーが培ってきたバイオ3Dプリンターとのシナジー効果も期待できます。リコーはこのバイオ3Dプリンターを柱とした、バイオメディカル事業を2025年度までに売上200億円の事業に拡大させる計画をしています。

 

製品紹介URL: https://jp.ricoh.com/technology/institute/research/tech_3d_bio_printer

 

③Volumetric

Carbohydrate Glass – Volumetric

2018年に創業したスタートアップで、バイオ3Dプリンタの開発を行っています。メトセラ財団が出資しています。

 

URL: https://volumetricbio.com/

 

 

Aspect Biosystems

Aspect Biosystems timeline by IDTechEx

最近、20億円の資金調達をしたの企業です。CEOのTamer Mohanmadはバイオプリンターの分野でTEDxにて講演も行っており、会社全体としてメディア露出も積極的に行って、バイオ3Dプリンターの認知度向上に努めています。バイオ3Dプリンターに関するウェブセミナーも定期的に開催しているようです。GSKやメルクとも提携をしており、今後の展開が期待されます。

URL: https://www.aspectbiosystems.com/

 

 

老化研究へ投資しているキープレイヤーたち(1)

今回は老化分野に投資を行っている中で、キーマンと思われる人々についてご紹介させていただきたいと思います。

 

1. Aubrey de Gray 

Presenters — RAADfest

老化研究においては第一人者のような存在で、海外の老化に関するセミナー等では必ずと言っていいほど、彼が登壇します。

YouTube等でも彼の講演の模様は見ることができます。彼は、TEDにも複数回登壇しており、中には50万回以上再生されているものもあります。

投資という観点では、彼はメトセラ財団SENS Research Foundationの創設者です。

メトセラ財団はメトセラファンドというVCを傘下に持っています(投資規模は不明)。

SENS Research Foundationもベンチャー投資を行っており、2018年は約1.1億円の出資をしたと推定されます。(詳しくは下記の記事をご参照ください)

longjevity.hatenablog.com

 

 

2. Laura Deming

Laura Deming - Wikipedia

彼女も老化研究への投資においてはとても有名人です。1994年生まれで現在26歳であり、次世代のベンチャーキャピタリストとしてとても注目されています。

もともとはニュージーランドに住んでいましたが、老化研究がやりたいということで、14歳の時にMITのラボで働き始めたという経歴を持っています。

その後、ペイパル創業者が出資しているビジネスコンテストに老化研究に特化したベンチャーキャピタルというアイデアを提案したところ、優秀者に選ばれたのでその事業家のためにMITを中退しました。

彼女のお父さんが投資銀行に勤めていたということで、もともと投資に興味があったそうです。

現在、彼女はlongevit fundというVC会社を運営しておりAge1(約22億円)というファンドを運用しています。

 

 

3. Sonia Arrison

Sonia Arrison (@soniaarrison) | Twitter

彼女は「寿命100歳以上の世界」という本の著者としても有名です。この本では人間の急激な長寿化が社会的、経済的、文化的に与える影響を取り上げています。

現在では、起業家および投資家として活動しており、100Plus Capitalという長寿社会に焦点を当てたVCファンドを運営しています(投資規模は不明)。

Aubrey de GrayやLaura Demingなどとセミナー等で対談している動画もよく見かけます。

動画等を何本か見た個人的な感想ですが、Aubrey de GrayやLaura Demingは研究者出身で時に熱く情熱的なイメージがあるのに対して、Snia Arrisonはアナリスト出身ということもあってか、いつも冷静なタイプです。しかし、会話は知的で面白いイメージあります。

 

 

4. Nils Regge

Nils Regge - Partner | Apollo Ventures

彼は、長年ベンチャーキャピタルサイドで経験を積んだ人物で、Apollo Venturesの共同設立者です。Apollo Ventures(投資規模は不明)は老化に特化したVCで拠点はヨーロッパにあります。

注目すべきは、前に挙げた3名はそれぞれ異業種から投資家として参入していますが、

彼の場合は長年VCでキャリアを積んできた点かと思います。

 

このように老化研究への投資にはさまざまなキーマンがいるので、こうした人々の活動をチェックするとともに、ほかに重要なプレイヤーがいないかについても引き続きアンテナを張っていきます。

 

参考サイト

www.sens.org

 

100pluscap.com

www.apollo.vc

投資家にとっての老化研究 【オンライン会議の紹介】

老化研究にはポテンシャルが大きく、これからの市場規模の拡大は目覚ましいものとなると考えています。これは、私の個人的な思い込みではなく、老化研究に投資している海外のVC投資家がそろえて口にしていることです。

 

しかし、老化研究に関して科学者サイドのセミナーやカンファレンスは少しずつ増えてきておりますが、投資家サイドのセミナーはあまり行われていないのが現状です。

 魅力的な投資機会があるにも関わらず、VCやPE、アセットマネジメント会社の投資家たちに情報が上手く伝わっていないため、その投資機会に気づいている人はごく少数に限られます。私も金融機関に勤めていて分かりますが、この老化領域の情報はほとんど皆気づいておりません。それにはいくつかの理由があると思いますが、やはり一番大きいのは情報や知識の不足です。ただでさえ、バイオ業界は専門知識が難しいと苦手意識を持った投資家が多いので、こうした人々に適切に情報提供を行っていく機会が必要です。

 

この問題を解決するために、スイスの投資家グループが老化研究への投資に関する、カンファレンスを開催するとのことです。

 

リンク先 https://www.longevityinvestors.ch/ 2020年10月1日12時~(スイス時間)

 

本来は対面でのイベントだったようですが、新型コロナウイルスの影響で、オンラインでの開催に変更されています。

つまり、日本からでも参加できるようになりました!!

時差は約8時間なので、日本時間の20時スタートであり、時間としても参加しやすいのではないかと思います。

もちろん英語にはなってしまいますが、VC投資家も多く登壇予定で、「どうやって老化治療に投資するのか」などの面白そうな演目が集まっていますので、よかったら参加してみてはいかがでしょうか。

私も時間を合わせて参加しようと思います。

 

老化研究のお財布事情 ~SENS Research foundation の開示資料分析~

今回はSENS Research Foundationについて、

お金に関する側面から分析していきたいと思います。

 

参考にした資料

https://www.sens.org/wp-content/uploads/2019/11/2018-SENS-990-Public-Copy.pdf

https://www.sens.org/wp-content/uploads/2019/05/SENS-Research-Foundation-2019-Annual-Report.pdf

 

結論から先に申し上げると、寄付によって3.5億円の収入があり、

研究に1.8億円ベンチャー出資に1.1億円奨学金6,000万円使用されています。

 

SENSの財源のほとんどは寄付によって賄われています。

2018年のデータでは、約3.5億円の寄付による収益がありました。

 

寄付の内訳をみると、仮想通貨からの寄付が43%と最も多いのが特徴的です。

少し話が脱線しますが、海外では、寄付文化が広く根付いているかと思いますが、そうした寄付の場面でも、仮想通貨が主流になっているのは興味深いです。

日本でもTポイントを使った寄付などができる団体もすでにあるようなので、今後こうした資金集めには仮想通貨やポイント利用が主になっていくのかもしれません。

現金での寄付については、個人からの寄付が30%で、法人からの寄付が23%となっています。

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一方で支出としても、約3.5億円が計上されています。

内訳をみると、52%が研究に、17%が教育、24%が管理部門に利用されています。

 

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研究については、SENSが施設内に研究室を持っているので、その研究運営及び研究者の雇用に1.8億円程度が充てられていると考えられます。

教育に関する出資は、主に奨学金制度の運営にかかる費用です。

SENSでは未来の科学者を育てる活動として、奨学金制度を設けているので、これに約6,000万円が使われているという計算になります。

管理部門の支出については、約8,400万円の支出のうち、6,000万円以上はSENSの職員の給与となります。SENSの開示資料を見ると、13名の職員が在籍していますが、このうち5名が週40時間勤務のフルコミット職員になります。一人あたりの給与は約1,200万円となりますが、物価の高いサンフランシスコにあることを考慮すれば妥当な金額ではないかと思います。

 

さてこれらに加えて、2018年は約1.1億円の投資にかかわるマイナスも計上されていました。おそらくこれはバイオベンチャーへの出資費用として拠出されているのではないかと想像されます。開示資料内では、バイオベンチャーに投資していることがとても詳細に解説されておりますが、帳簿上関係していそうな項目がありませんでしたので、この投資損益の部分に計上されていそうです。

 

年間3億円以上の寄付金を集めて運営されているのは一定の評価ができるかと思います。実施に、老化研究と言えばSENSと呼ばれるほど、業界内での知名度もあります。

しかし一方で、日本のiPS研究基金は2019年度で年間50億円の寄付を集めており、成長余地もまだまだあるのではないかとも感じています。

これからも老化研究の分野でもより多くの資金が集まることを願うばかりです。

老化時計を求めて 眼球のレーザー測定がバイオマーカーに!?

前回の記事でも、老化研究において、バイオマーカーの確立が重要であるという話はさせていただきました。老化のバイオマーカーにはDNAメチル化やテロメア長の測定など、いくつか手法があります。

 

そんな中、眼球の水晶体を測定することがバイオマーカーになりうるという研究がありましたので、本日はこれをご紹介させていただこうと思います。

 

ちなみに水晶体とはこちらの部分です。

代表的な眼の病気|アイガンUV420

 

まず、加齢によって体内のタンパク質の構造が変化していきます。

以下の図が分かりやすいかと思います。

 

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そして、体内に蓄積されたこうしたタンパク質の量を測定すれば、老化を測定できるという原理です。

眼球の水晶体にも、こうした老化によって変化したタンパク質が蓄積されており、レーザーによる測定で老化を計測できるとのことです。

 

研究チームも言っていますが、この手法のメリットは非侵襲的手法であることです。DNAメチル化の測定やテロメアの測定には血液サンプルが必要となりますが、この水晶体測定では不要です。レーザーを照射するだけなので、計測にかかる時間や金銭的コストも従来の手法よりも少なくなることでしょう。

 

直感的には、眼球の測定だけで体全体の老化が果たして本当に反映されているのかという疑問は残りますが、少なくとも加齢黄斑変性などの目の疾患予防にはとても効果的でしょう。

ビジネス化する際にも、まずは眼科領域での予防検査装置の開発という選択肢は現実的だと思います。

引き続き研究を続けてもらい、画期的なバイオマーカーの構築につなげてもらいたいと思います。

 

文献のリンクは以下になります。

academic.oup.com

DNAメチル化のスタートアップが11億円の資金調達

今回は、DNAメチル化のスタートアップ企業が11億円の資金調達をしたという記事について解説していきたいと思います。

 

原文: https://www.longevity.technology/dna-methylation-start-up-launches-with-11m/

 

Base GenomicというDNAメチル化技術の開発をしているイギリスの会社が約11億円の資金調達に成功しました。

DNAのメチル化はエピジェネティックな変化と呼ばれており、老化と密接に関係しています。近年では、DNAメチル化をバイオマーカーとして、老化を測定しようという研究やDNAメチル化制御によって老化をコントロールしようという研究が盛んに行われています。

そんな中で今回、DNAメチル化に関する技術開発を行っているスタートアップが巨額の資金調達を成功させたことは、大きな意義があると思います。

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さて、Base Genomic社の技術について少し開発していきます。

同社はDNAメチル化の検出に際してTAPSという技術を開発しました。

これまでのDNAメチル化検出は重亜硫酸塩シーケンシングという方法が主流でしたが、TAPSはさまざまな点で、従来の手法を上回っています。

TAPSによってより多くのDNAのメチル化検出が可能になり、長い塩基配列でも測定可能になりました。また反応の効率性もよく、価格も従来の半分程度で済むとのことです。

このTAPSの登場によってDNAのメチル化研究がさらに進むことを期待したいと思います。

 

また、同社は今後、検査技術のTAPSだけでなく、DNAメチル化を制御する酵素の開発も行っていくとのことです。

 

<p><strong>Oliver Waterhouse </strong>Co-Founder & CEO<a href="#lightbox>oliver-waterhouse">Read Bio →</a></p>

ここからは私の個人的な興味になりますが、こうしたバイオベンチャーを創業した人はどのような経歴なのかということが気になり、少し調べてみました。

同社のCEOは上の写真のOliver Waterhouseという方です。

彼は、マッキンゼーで医薬品業界のコンサルティングに従事したのち、Zinc VCというベンチャーキャピタルで、10以上のデジタルヘルスの会社の創設に携わったとのことです。その後、Base Genomicを立ち上げています。

自身がVC出身ということもあって、資金調達なども上手だったのかもしれません。

経歴を見ても、コンサル経験もありビジネスサイドには長けている方だと思われるので、投資家としても安心感を持てる気がします。

 

日本のバイオベンチャーでも、こうしたVC出身の方が起業するような時代になれば良いなと考えております。そのためにも、日本のVCは人材を広く集めて、バイオ業界についての知識をもっと獲得していかなくてはならないのではと思います。

腸内細菌が老化のバイオマーカーに!

老化研究において、宿主がどれくらい老化したかを判定するバイオマーカーは非常に重要です。老化を改善する技術ができた場合に、実際にその効果があるかどうかを確かめるにはバイオマーカーを使用が不可欠だからです。

しかし、老化のバイオマーカーはあまり発見されていないことが現状です。

今回は、アメリカの研究グループが腸内細菌のデータ解析を用いて、老化のバイオマーカー(老化時計)を開発したというニュースをご紹介します。

 

原文: https://www.longevity.technology/microbiome-clock-has-the-guts-to-tell-your-age/

 

ハーバード大学医学部とインシリコ医学研究所の科学者たちは、腸内細菌から採取した何千もの全ゲノムシークエンシングサンプルを用いて、微生物学的老化時計を開発しました。また、この新しいツールを用いて、宿主の年齢が腸内細菌の動態に大きく寄与していることも発見しました。

腸内細菌は、免疫機能、脳の発達と活動、中枢代謝など、多くのプロセスに重要な貢献をしています。腸内細菌がどのように形成され、老化による影響を受けているかを理解することで、私たちは老化に対する理解をさらに深めることができます。

 

これら腸内細菌は、私たちの食生活、身体活動、タバコやアルコールの消費量、年齢によって影響を受けます。

腸内細菌と年齢に関する研究は、いくつかの文献で確認されていますが、老化のバイオマーカーとして利用できるほどの、一般的な適用可能性はこれまでありませんでした。

 

Insilico MedicineとBrigham and Women's HospitalとHarvard Medical SchoolのVadim Gladyshevの研究室の共同プロジェクトでは、ヒトの腸内細菌に関する13の公開研究から得られたデータを集約し、腸内細菌の相対的な豊富さのプロファイルに基づいた老化時計の開発の可能性を模索しました。

1100種以上の腸内細菌サンプルをディープニューラルネットワーク解析し、結果として得られた老化時計が出来上がりました。

この老化時計は、独立したデータセットで宿主の年齢を平均誤差5.9~6.8年で予測することができます。

研究チームが目指す次のステップは、より制御された設定で特定の細菌の老化への影響を探り、老化を促進または遅らせる可能性のある微生物を特定することです。