未来を変えよう、科学の力で

丸の内金融が考える不老不死へのサイエンス

バイオ3Dプリンター最前線(2)

3D lattice structure of a tissue implanted directly onto a soft living tissue. Credit: Ohio State University

前回好評だったバイオプリンターの特集の2回目です。

今回はある研究所が中心となって開発した技術を紹介していきます。

1回目の記事はこちら。

longjevity.hatenablog.com

 

 

 

Terasaki Institute

f:id:satoshi13369:20200629214911p:plain
日系2世で臓器移植の分野で著名な科学者であったPaul Terasaki氏が設立した研究所です。個別化医療の確立を目指して、臓器移植をはじめとしたさまざまな研究開発を行っています。

 

従来のバイオ3Dプリンターの問題点

これまで想定されていたバイオ3Dプリンターは実験室の装置で作成され、手術によって移植されることを前提としていました。この方法では保存や輸送の問題が発生しますし、感染症のリスクもあります。また、治療までに要する時間がかかることも問題でした。

 

今回の開発 

参考文献: Terasaki Institute - Directly Printing 3D Tissues Within the Body

Terassaki研究所の所長兼CEOであるAli Khademhosseini博士、オハイオ州立大学機械航空工学科のDavid J Hoelzle博士、ペンシルバニア州立大学化学工学科のAmir Sheikhi博士の共同研究により、体内に直接印刷するために設計された特別に調合されたバイオインクが誕生しました。これによって、手術室で直接バイオプリンティングが可能になりました。

 

感想

この技術は手術用ロボットなどとイメージが近いと感じました。手術用ロボットの市場規模は2025年までに1兆3000億円になると言われていますし、こうした体内への直接印刷のバイオ3Dプリンターの市場もポテンシャルが大きそうだと感じました。

また、Terasaki研究所は日系の方が設立されたこともあってか、HPを見ていてもアジア人の方の比率が高い気がしました。もちろん日本人の方もいらっしゃいます。日本のバイオベンチャーもこうした日本に少しでもゆかりのあるような組織を巻き込んで研究やビジネスを進めていくべきではないでしょうか。

離婚すれば長生きになる!?

今回は本人の特性や周りの環境と長寿の関係を調べた研究をご紹介します。

違いを表で確認】有料老人ホームとは?介護付・住宅型・健康型の特徴と ...

参考文献: 

IJERPH | Free Full-Text | Environmental Correlates of Reaching a Centenarian Age: Analysis of 144,665 Deaths in Washington State for 2011−2015 | HTML

 

この研究は、2011年から2015年までのワシントン州における144,665人の死亡者データを分析した研究です。研究チームはこのデータを用いて、75歳以上の高齢者が、100歳まで生きるために効果が大きいファクターが何であるかを調査しました。

 

【要約】

研究者たちは、本人の性別、人種、教育、配偶者の有無、また本人が住んでいた近隣の生活環境レベルなどと、100歳まで生きれるかの関係について調べました。

その結果、本人の教育水準の低さ、住んでいる近隣環境の治安、その地域の経済的な豊かさ、および生産年齢人口の割合の高さが、100歳まで生きれることと正の関連がありました。また、寡婦であること離婚・別居していること、未婚であることも、既婚者と比較して正の相関がありました。

 

今回の研究で分かった驚くべき事実は、学歴が100歳まで生きることとは負の相関があったことです。一昔前の研究では、学歴と長寿については正の相関がみられることが、常識でした。しかし教育水準の向上で、1950年には25歳以上の米国人口の34.3%しか高校卒業資格を持っていませんでしたが、2000年には80%以上にまで増加しており、現在では学歴というファクターが意味をなさなくなっているのかもしれません。

 

もう一つの予想外の発見は、既婚の高齢者と比較して、未婚、未婚、未亡人、離婚・別居の人が100歳代になる可能性が高かったことです。先行研究の多くでは、結婚は離婚や未婚よりも生存期間が長いことが一貫して観察されています。しかし今回の研究では、特に75歳以上の高齢者に焦点を当てている点で他の研究とは異なります。高齢者の健康に対する婚姻状況の影響は調査されておらず、今回の発見は意義のあるものです。

 

【感想】

本研究では、学歴について4つのカテゴリー分類 (中卒、高卒、短大卒、大卒以上) をもとにしていました。修士号や博士号取得者を別ファクターで分析したり、卒業校の偏差値別などで区分していればまた違った結果が出てくるのかもしれないなと感じました。

結婚と長寿の関係も興味深かったです。筆者たちが述べているように、結婚しているほうが死亡率が低下するという研究はこれまでにもたくさんありました。高齢者の長寿にはパートナーがいないほうが良いという今回のデータが正しいとすれば、長生きするためには、若いうちは結婚生活を続けて、熟年離婚するのが最適な選択ということになるのでしょうか。なんとも、皮肉なものですね(笑)

 

血液を薄めると若返り!?

血液の液体部分を血漿と呼びます。カリフォルニア大学バークレー校の研究者たちが、古い血漿を希釈することで老化を遅らせることができることを発見しました。

参考: https://www.sciencetimes.com/articles/26069/20200616/diluting-blood-plasma-albumin-saline-regenerate-tissue-reverse-aging-study.htm

 

f:id:satoshi13369:20200627113909p:plain

 

【要約】 

血漿を処理することで老化の影響を軽減する方法については、これまで膨大な量の研究が行われてきました。しかし、これまでは、若い血液を投与することで、古い血漿を若返らせることに焦点が当てられてきました。若いマウスの血液には、若さの元となるユニークな特性があって、それを老化したマウスにも加えれば若返りができるのではないかという考えが研究者の間では主流でした。

しかし、今回の新しい研究では、古いマウスの血液にだけ焦点を当てています。

そして、従来の実験であれば若いマウスの血液を投与する代わりに、

 生理食塩水とアルブミンの組み合わせを投与すると、脳や肝臓、筋肉などの重要な臓器の若返りに有意な効果がありました。

 

【感想】

若いマウスの血液を投与していた従来の実験は、実は若いマウスの血液が大事なのではなく、老化した血液を薄めることが大事であったということがこの研究によって証明されました。老齢マウスの血液には老化を促す成分が凝縮されているということでしょうう。他社の血液を投与することは、当然多くの副作用も考えられますし、実際に今回の文献でもその点が言及されていました。一方で、薄めるだけで良いというのは、より臨床への期待が高まるデータなのではないかと考えます。

バイオマーカー確立までは道半ば

今回は、DNAメチル化のバイオマーカーについて、その臨床開発は道半ばであるという記事がありましたので、ご紹介させていただきます。

 

参考 https://elifesciences.org/articles/58592

 

寿命のバイオマーカーの一つの候補として、DNAメチル化の測定という手法があります。エピジェネティックな変化と呼ばれる手法です。しかし、人間のバイオマーカーとしてこれを用いるにはまだ課題もあります。

 

老化のバイオマーカーとして有用であるためには、以下の4つの基準を満たす必要があります。

①その測定の信頼性が高く、また実際にその測定を実行できること

②老化に関連していること

③機能的能力、疾患、死亡などの臨床試験の項目を予測できること

④老化を標的とした治療法などの介入に反応すること

です。

そして、現在臨床研究で実験されたDNAメチル化のバイオマーカー候補はいずれも、④をクリアすることができていませんでした。

 

以下の図をご覧ください。バイオマーカー候補の5つの手法に対していずれも項目①~③はクリアしています。しかし、④については外部からの介入には反応しないという結果となり、バイオマーカーとしては不合格の状況です。

④の検証にはカロリー制限が使用されました。老化治療の方法の一つとして、カロリー制限が挙げられ、多くの動物でカロリー制限が老化を遅らせることが証明されています。しかし臨床研究において、2年間のカロリー制限をした被験者と何もしなかった被験者を比較すると、両者の間で結果に変化が出ませんでした。したがって、バイオマーカーとして必要な要素である④は未だ満たされていないということになります、

 

感想

DNAメチル化に関するバイオマーカーに関して、ヒト以外では④をクリアできるものが見つかっているのか気になりました。

老化研究へ投資しているキープレイヤーたち(2)

今回は老化研究に投資している著名投資家ら、業界の重要人物をご紹介する回の第二弾です。

 

前回記事はこちら

longjevity.hatenablog.com

 

前回は4人目までご紹介しましたので、今回は5人目からご紹介していきたいと思います。

 

5. Greg Bailey

Advisory Panel that will be shaping the ethos and future of First Longevity. Longevity.Technology and Crowd Longevity, Greg Bailey

彼は、老化に投資するJuvenescenceという会社のCEOを務めています。Juvenescenceは最近でも老化に関連した100億円規模のファンドを立ち上げたことがニュースになっていました。老化関連の投資やエコシステムの構築を通して、老化治療の進展を目指しています。

彼自身は、医学の学位を持っており、金融に入る前に10年間救急医療の現場にいました。その後15年以上、投資銀行業務を経験しており、ヘルスケア、金融、医療の分野での包括的な経験を持っています。

 

【ご参考】

Juvenescence

Juvenescence raises $100M to fund longevity assets to early readouts | FierceBiotech

 

 

6. Reason Cherman

Reason Cherman - Co-Founder and CEO @ Repair Biotechnologies ...

彼は、老化研究における情報発信ブログである「Fight Aging!」の創設者です。「Fight Aging!」は最新の研究に関する情報や、スタートアップ企業、学会の情報など、老化研究に関することは網羅的にまとまっている素晴らしいブログです。

このブログの元ネタとしてもよく彼の記事を使わせていただいています。

また、彼は老化研究におけるエンジェル投資家としても活動しており、

Repair Biotechnologies というバイオベンチャーの共同設立者兼CEOも務めています。

 

【ご参考】 

Fight Aging! – The science of rejuvenation biotechnology. Advocacy for longer, healthier lives.

 

7. Karl Pfleger

Karl Pfleger | AngelList

Google出身でAgingBiotech.infoというメディアを運営しています。彼のHPには老化研究に関するスタートアップのリストがGoogleスプレッドシートでまとめらています。このリストはベンチャーキャピリストたちがスタートアップに出資を検討したり、コンタクトを取ったりする際に利用されているようで、とても有益な情報源です。

 

【ご参考】

Aging Biotech Info

 

今回は老化研究に投資しているキープレイヤーをご紹介する第二弾でしたが、いかがでしたでしょうか。

最近、本ブログをご覧いただいた方から直接感想をいただく機会も何度かあり、大変嬉しく感じております。

取り上げてほしい内容や、老化関連の情報収集で困っていることなど、何かご要望・ご質問・ご相談などございましたら、ぜひお気軽にお問合せください。

本ブログへのコメントでも構いませんし、私のTwitterにご連絡いただいても構いません。多くのご意見をお待ちしております。

 

 

不健康の人でも血圧をコントロールすれば余命が延びる!?

今回は生命科学というアプローチではなく、健康科学的なアプローチを記事にしてみたいと思います。

テーマは高血圧です。高血圧は、先進国の三大死因の一つである心臓病の原因です。直感的にも高血圧を防ぐことは健康に強い結びつきがあることは容易に想像できるかと思いますが、高血圧はさまざまな加齢に伴う病気の原因となり、やがては死を引き起こします。

今回は大規模なリサーチから血圧のコントロールと余命の関係を調査した実験をご紹介します。

この研究によって、処方された通りに血圧の薬を服用することで、実験当初に健康であるか不健康であるかにかかわらず、生存率の向上が見られることが分かりました。

 

参考: https://newsroom.heart.org/news/blood-pressure-medications-help-even-the-frailest-elderly-people-live-longer

 

血圧測定の写真素材|写真素材なら「写真AC」無料(フリー)ダウンロードOK

 

この実験は、イタリアの被験者の130万人のデータベースを解析することで行われました。研究者たちは、2011年から2012年に3回以上の高血圧治療薬の処方を受けた北イタリアのロンバルディア地方の65歳以上の約130万人(平均年齢76歳)のデータについて検証しました。

研究開始時点での被験者の健康状態を健康状態を良好、中程度、不良、非常に不良の4つのグループに分けて7年間分のデータ追跡を行いました。その結果、血圧薬の服用率が非常に低い人(調剤された錠剤の服用率が期間の25%未満)と比較して、血圧薬の服用率が高い人(服用率が期間の75%以上)は7年間の生存率が向上するというデータが得られました。

この結果は初期の健康状態が「良好」であった人で最も顕著で、死亡率が44%減少しました。また初期の健康状態が「非常に不良」であった人でも死亡率が33%減少しました。

 

このように血圧のコントロールは高齢者になってからも非常に大切のようです。高齢のご家族がいる方は、まずは血圧の測定を習慣づけるように促すところから始めてみても良いかもしれません。

iPS研究のお財布事情

iPS細胞研究基金をご存知でしょうか。

京都大学の山中先生が運営しているiPS細胞研究所の資金を賄う目的で設立された基金です。今回は、この基金のご紹介とそのお財布事情を分析していきます。

 

基金の目的は?

日本の科学研究の問題点として、お金の問題が必ず付きまといます。実際にiPS細胞研究所の9割が非正規雇用の研究者なのです。国からの予算は潤沢にありますが、それはすべて有期(例えば5年間など)の予算であり、満期後には打ち切られてしまう可能性もあることから、なかなか正社員の研究者を雇えないという問題があります。

これを解決する目的として、設立されたのがiPS研究基金です。現在は収入のほぼ100%が寄付によって支えられています。

 

〇収支分析

基金のHPにて収支報告が掲載されていたので、それらのデータを基にグラフ化したのがこちらです。

f:id:satoshi13369:20200621110053p:plain

f:id:satoshi13369:20200621110122p:plain

f:id:satoshi13369:20200621110145p:plain

順調に寄付金額を集めることができているのが分かります。

一方で、iPS細胞研究所の全体の予算に占める、基金の支出は全体の11%にとどまっています。iPS細胞研究所を国からの有期の予算に縛られず、持続的な組織にするためには、このiPS細胞研究基金からの支出部分の割合をどのように増やせていけるかがポイントです。そのためには、基金の収入を今後も増やしていく必要があると言えます。

f:id:satoshi13369:20200621162310p:plain

 

 

〇キーマンは?

山中伸弥

iPS備蓄予算で「山中教授に誤解与え反省」 内閣官房:朝日新聞デジタル

資金集めの上でキーマンになるのは、まずは何といっても山中先生です。その知名度は絶大でメディア等への露出も多いのです。最近ではマラソンへの参加を通して、基金への寄付を呼び掛けるなどの活動も行っております。逆に言えば、山中先生が引退した後も基金への寄付額を維持できるような仕組みづくりを今のうちから考えておく必要もあるかもしれません。

 

渡邊文隆

f:id:satoshi13369:20200621164956p:plain

渡邊さんは、基金の資金集めを担当するファンドレイザーの責任者として、2013年から活躍されてきた方です。Tポイントによるポイント寄付など、さまざまな新しい施策を打って基金の寄付額の増加に尽力されてきました。当初は年間5億円が寄付額の目標であったにもかかわらず、現在ではその10倍の年間50億円近くの寄付金を集めることに成功しています。

 

〇今後の展開は?

iPS細胞研究財団

現在、基金の資産の一部を使って、再生医療系の事業を展開していくiPS細胞研究財団が立ち上がっています。すでに武田薬品やキリンHDなどと共同研究を行うなど、事業化に向けた技術開発も始まっています。再生医療に関するコンサルティングビジネスも行う予定で、こうした事業から得られる資金をIPS研究所の資金に充てる予定です。

 

株式や債券などの資産運用

こちらは、個人的な考えになりますが、寄付金で蓄えた財団の資産を使って、資産運用を行うのもありなのではないかと考えます。海外では、イェール大学などの多くの大学が投資家として自身の資産を運用し、その運用益を大学の運営資金に充てています。iPS研究基金も資産が潤沢になりつつありますが、年間の収支報告を分析すると、その資産のすべてが現金で保有されているということが分かります。これらを株式や債券などのリスクアセットを使って運用してみるのもありなのではないでしょうか。仮に、100億円の資産を年間7%のリターンで運用すれば、現在の基金の支出は運用益から賄える計算になります。

 

iPS細胞をはじめとした再生医療技術は、日本が世界の最先端を走っている数少ない分野です。今後の発展のために十分に研究資金が確保できるような仕組みづくりが求められています。